オーナーシェフ 高添 邦彦

 料理の魔法に魅せられて

  人の食事を作る事になる私が育った家には1日に二度の「おやつタイム」がありました。それぞれ10時と3時に「おやつタイム」が開かれていたのですが、二つ目の3時の「おやつタイム」は母親による手作りのおやつが振舞われていたのです。前日の晩御飯の残りの餃子でワンタン麺を作ったり、ホットケーキミックスでどら焼きをつくったり、お彼岸の時には3種のおはぎを作ったり・・・。ついには友達を家に呼び、母を困らせながらも友達と一緒に食べるおやつと、笑顔の友達と、そこに笑顔で見ている母。その空間が、小さな私の中に、小さな”種”を宿したのだと思います。時間が経ち、大人になってゆく中で色々な経験をしました。その中で、”種”はおどろきの言葉やよろこびの表現で成長し、料理人になる事を決心し、今もなお真の料理人になれることを目指しています。私の家には秋から春前まで一つのコンロを大きな鍋をとあるスープが占領していました。とりガラとキャベツの芯、大根のあまり、人参とセロリのスープ、言い換えれば継ぎ足し継ぎ足しスープ。寒い時期、朝から体が温まり、すぐに食べられる役割を持つスープは、素材の味しかしない一方で全てが一体となってオーケストラの様な…しかし派手でも華やかでもなく確たるベース、芯となる味が、型を変えてもアプローチを変えても存在していました。その芯となる味が「おいしい」という事を構成する一つの大きな要素であり、私の料理の芯となっています。